カジノ推進法が成立し、IR法案が形になったことで全国の自治体の中にはIR設置に向けた動きを強めるところが見られます。

その一方、カジノ推進法などの議論で出てきた税収の数字はコロナ前の数字であり、経済効果やメリットを鵜呑みにはできない状況となっています。

カジノ推進法が成立したものの、それまで議論されてきた状況を一変させるコロナの影響や経済効果、メリットがどのように変質していくのか、チェックしなければなりません。

 

カジノ推進法が成立してもコロナが全てを変えた

2020年から新型コロナウイルスの影響で、一般的な生活様式が根本から揺らぎ、これまでのビジネスモデルが通用しなくなりつつあります。

コロナ禍によって様々なことが変質したことで、カジノ推進法で語られてきた経済効果やメリットが当てはまらなくなった可能性が出てきました。

 

コロナ禍で海外旅行ができない

新型コロナウイルスの影響で、自由に海外旅行ができないような情勢となっています。

現状、パスポートとチケットがあれば無条件で入国できる国はわずかしかなく、帰国したとしても14日間の待機が求められます。

これでは海外旅行をしようという気にはなりませんし、わざわざそのリスクを負って海外旅行を試みる人は少ないです。

日本人が世界へ旅行するケースでこんな感じですから、世界の国々から日本へ旅行するケースはさらに大変です。

インバウンド客狙いでカジノを整備したとしても、誰も来てくれない可能性が高いでしょう。

 

待機期間中の会食がさらなる波乱に

2021年1月13日、日本政府はすべての入国者を対象に14日間の待機要請に従わなければ氏名を公表する可能性があることを明らかにしました。

外国人に至っては在留資格の取り消し強制退去の可能性もあり、決して穏やかとは言えません。

これは1月に入り、待機要請をお願いしたにもかかわらず、その期間に会食を行ったイギリスからの帰国者が明るみになり、大きな騒動となったためです。

この状況で無理に日本へ入国しようとするのは難しく、コロナが収まるまでなかなか改善されないでしょう。

 

カジノ推進法の下敷きになった世界のカジノ産業も苦しんでいる

カジノ推進法を作る際には、世界中のカジノ産業を下敷きにし、制度をうまく参考にしてカジノ推進法が形作られてきました。

いわば日本のお手本になった世界のカジノ産業もまた、コロナで苦しんでいる状況です。

 

マカオのカジノ収入は激減している

マカオは世界有数のカジノタウンですが、新型コロナウイルスの影響で海外からの旅行者が減っており、大きな痛手を負っています。

2019年のカジノ総収入はおよそ3兆8000億円でしたが、コロナ禍となった2020年のカジノ総収入は半分以下になる可能性が示唆されています。

そして、2021年のカジノ総収入を1兆7000億円に設定しており、実に2兆円ほど収入が激減していることがわかります。

マカオの場合、9月までは収入が9割減という危機的な状況の中、中国からの観光客が来始めたことでなんとか売り上げを回復できた経緯があります。

その中国でも第2波が訪れたとされ、再び中国からの渡航制限が厳格化すれば、マカオのカジノ収入はさらなる減少が見込まれます。

 

シンガポールやアメリカでは人員削減も

シンガポールのIR「リゾート・ワールド・セントーサ」、通称RWSにおいてコロナ禍で経営が厳しくなり、経営合理化策が導入されました。

1回限りの人員整理や管理職の給与削減などを行い、フルタイムで働く従業員7,000人以上が大幅に減らされる可能性があります。

またアメリカのMGMリゾーツ・インターナショナルでは、およそ1万8000人の人員削減を行い、衝撃を与えました。

アメリカではコロナ禍をきっかけとした大量解雇が相次いでおり、MGMのケースもその時流に乗る形となっています。

 

カジノ推進法があっても、海外事業者が日本から手を引く状況

カジノ推進法が成立する際には相当なバッシングや批判の声が殺到するなど、関係者からすれば相当苦しい思いをして作り出した法律です。

それは海外事業者の参入を見越してのことでしたが、海外事業者が日本から手を引く事例が出始めるなど状況は変わっています。

 

米国サンズ社は既に撤退

アメリカのIR最大手であるラスベガス・サンズは、2020年5月に日本への参入を断念しました。

一番の原因は新型コロナウイルスの影響で業績が悪化したためで、当初は大阪への参入を希望したものの、後に横浜市での参入を模索するも断念を余儀なくされた形です。

ラスベガスの最大手ですら日本からの撤退を表明していることから、日本への参入を断念するケースが今後増える恐れがあります。

他にも横浜に拠点を作っていたウィン・リゾーツは日本のIR市場への関心こそ残しているものの、横浜の拠点を閉鎖しました。

 

足かせとなった1兆円の投資

表向きはコロナ禍を理由とする一方、日本から撤退する理由としては日本への参入のために1兆円の投資を余儀なくされることが考えられます。

1兆円の投資を行う体力がなければ、その1兆円を確実にペイする未来が描けないのも日本への参入を断念する要素と言えます。

 

カジノ推進法成立で税収アップを想定していたコロナ前の横浜市の税収見込み

カジノ推進法が成立し、IRが整備されることで、横浜市は一定金額の税収がアップすることを見込んでいました。

その中で地方自治体の増収効果として、横浜市は820億円から1200億円の増収が期待できるとしています。

 

事業者から提供された数値による計算

横浜市が想定した税収アップの予想に関しては、事業者から提供された数値が下敷きになっており、それを監査法人に整理してもらった形です。

実際に数値を提供した事業者は12に上り、この中には日本の企業も含まれていますが、日本でIRを運営した経験は誰もないため、コロナではない時期から本当にそこまでの税収アップが見込めるのか疑問視されていました。

 

カジノ推進法で定めた基本方針案にもコロナの数値は反映されず

2020年10月、横浜市は前年に提出してもらったコンセプト募集に関する提案概要を公表しています。

公表したのは2019年に寄せられた概要であり、2020年6月までに事業者からヒアリングをしていますが、コロナによる影響は反映されていません。

このため、改めて検証を行うとして追加のコンセプト募集が行われることになっており、新型コロナウイルス対策などの提案を受け付けることになります。

 

再試算と説明責任はいつ行われるか

現状、コンセプト募集を受付、数値面での検証が行われている状況です。

では、その結果、横浜市の税収はいくら増えるのか、再試算がいつ公表されるのかはまだわかりません。

これがわからないことには、コロナ禍がどれだけのダメージを与え、そこまでしてIRを誘致すべきかどうかの判断ができません。

一方、コロナ禍を理由に直接の説明を避けてきた林文子市長の説明責任が問われます。

現状では横浜市は説明責任を果たす気持ちが弱く、今後の懸念材料と言えるでしょう。

 

カジノ推進法の前に、横浜市の税金投入事業が問題に!

カジノ推進法で整備がどのように行われるかはさておき、横浜市で現在問題になっているのは巨額の税金を投じて建物を建てようとしていることです。

コロナ禍で税収が下がっている中、わざわざしなければならない事業だったのか、確認します。

 

横浜市の新たな劇場「オペラハウス」

横浜市には、本格的な舞台芸術を上演できる環境がなく、世界に匹敵する本格的な劇場を作りたい、と林横浜市長は主張しています。

2020年9月には、概算の建設費と設計調査費だけでおよそ480億円かかるとされ、設計費と土地代を入れると615億円までふくらみます。

 

新市庁舎の建て替え

横浜市の市庁舎は老朽化、周辺ビルへの分散化が進んでおり、結果的に新市庁舎を建てるに至ります。

新市庁舎を建てた理由は、東京オリンピックの際におもてなしの施設にしたいという林文子市長の発言が物語っています。

結果的に設計や建設費、土地代などを含めおよそ1000億円がかかりました。

商業施設の賃料も歳入としてカウントされる一方、管理運営費が歳出にカウントされるため、結果的に多く歳出を見込むことになります。

 

コロナ禍で税収の激減が想定される

2020年9月、新型コロナウイルスの影響で1000億円近い財源不足になる見通しであることを横浜市が明らかにしました。

市税の税収が500億円近く減少し、特に2つの市民税の大幅減が税収の下振れを誘発した格好です。

しかも、社会保障費の増加に歯止めがかからず、2021年度で1000億円近い財源不足になる可能性があります。

厳しい予算編成になる、事業の見直しをしなければならないという中で、オペラハウスの建設などをやる意味があるのか、問われます。

 

カジノ推進法は決まったが、横浜市は他にやるべき事がある

横浜市によるオペラハウスへの強い思い入れは林文子市長によるものが大きく、新市庁舎に関しても、既に動いていたことから、なかなか止まりにくかったことが考えられます。

一方で、横浜市民がIR設置に賛成か反対かを示すための住民投票に関しても、林文子市長や議会(多数派の自民党・公明党)は住民投票を行うことに反対です。

林市長は「住民投票に意義を見出し難い」とまで発言しています。

何が何でもIRを誘致したい勢力が横浜市の中にいることは確かです。

 

カジノ推進法よりも「給食」を求める横浜市民

長らく子育てをする横浜市民を悩ませているのが公立中学校での昼食についてです。

他の自治体では給食が出されている中で、横浜市は給食がなく、「ハマ弁」と呼ばれるお弁当が配達されますが、あくまでも希望者のみとなっています。

この「ハマ弁」は林文子市長の肝いりで始まった一方、何かといわく付きとされ、目標の2割の利用率に達しても、ほとんどの生徒は家庭での弁当です。

財源を投入すればすぐにでも給食を実施できるにもかかわらず、カジノを優先するのが今の横浜市です。

 

まとめ

カジノ推進法はコロナ前を想定したものになっており、コロナ以降のカジノを取り巻く環境は悪い意味で劇的な変化を見せています。

長年カジノ運営を行ってきた企業ですらうまくいかない中、これからカジノに新規参入する日本がうまくいく保証はどこにもありません。

その中で横浜市はいまだにカジノ導入に向けて強い姿勢を崩していません。

オペラハウスや新市庁舎など、コロナ禍で苦しむ市民たちには目を向けず、ハコモノをどんどん作ろうとしている状況が果たして健全かどうか、今後の動向に注目が集まります。