IR、統合型リゾートを日本でも設置しようとする動きが強まっています。
コロナ禍になる前はどこにIRが設置されるのかとそれぞれの自治体が競争を展開してきました。
しかし、コロナ禍となりIR設置のメリットよりもデメリットが心配されるようになり、むしろ本当に日本にカジノは必要なのかという話にもなってきました。
IRは日本にどれだけのデメリットをもたらす可能性があるのか、まとめました。
IRを取り巻く環境はコロナ禍で変わった
IR、統合型リゾートを巡る議論はコロナ禍で大きく変わり、今どうしてもやらなければいけないことなのかという優先順位の問題にもなってきました。
そして、コロナ禍により、世界のカジノ事業者が大きな影響を受けていることも、日本におけるIRを取り巻く環境に色々な影響を与えています。
コロナ禍でカジノ事業者は苦しんでいる
マカオなどアジアやヨーロッパで統合型リゾート、IR施設を開発・運営を行っているメルコリゾーツ&エンターテインメント・リミテッドは、2020年第3四半期の営業総収入が218億円にとどまり、およそ8割強の減少になったことを明らかにしています。
アメリカでは2020年4月に全米にある1000か所近いカジノが全て閉鎖に追い込まれ、シンガポールでも同様の状況になったことで、数か月間の収益がほぼゼロとなりました。
その後はなんとか営業を再開するもコロナ前の状況に戻すことができず、決算数字は軒並み半減以下で、8割減、9割減も珍しくない状況となっています。
コロナ禍で事業縮小の動き
日本での統合型リゾート事業に興味を持っていたラスベガス・サンズは2020年5月に撤退を発表、横浜に事務所を構えていたウィン・リゾーツも事務所閉鎖を決めるなど、事業縮小に向けた動きが出てきています。
アメリカのMGMリゾーツ・インターナショナルは決算報告会において、オンラインギャンブル路線にシフトチェンジを試みていることを明らかにし、日本への投資はよほどのリターンがなければ難しいことを示唆しています。
今からIR施設を整備し、そこから運営を行っていくには相当なメリットがカジノ事業者にないと大変です。
またラスベガス・サンズでは60億ドル規模でカジノ資産売却を検討するほか、シーザーズ・エンターテインメントも資産売却に動き出しています。
他にもMGMリゾーツ・インターナショナルは1万8000人もの職員を解雇し、長崎でのIRに参加を検討するカジノ・オーストリアでも人員削減を行うなど、世界的に人員整理を行う動きが見られます。
IRを設置しても失敗することはある
統合型リゾートを設置すれば、どんな事業者でも儲けることができるイメージがあるかもしれません。
しかし、世界にはIRを設置しても結果的に失敗に終わってしまったケースも少なくなく、決してバラ色な未来が待っているとは言い切れないのです。
アトランティックシティであのトランプが失敗した
アトランティックシティはアメリカ・ニュージャージー州にあり、アメリカ東海岸最大規模のカジノとされています。
ニューヨークやフィラデルフィアが近くにあるため、そこからのお客さんが多く、リゾート地として栄えていた時期もありました。
1976年にカジノを合法化し、1980年代前半にはアメリカ前大統領のトランプ氏がカジノリゾートをオープンします。
しかし、トランプ氏は事業を急に拡大させ、結果的に高金利で借金を行うなど、首が回らなくなりアトランティックシティのカジノを2つ倒産させる憂き目を見ます。
その後のアトランティックシティはゴーストタウンと化し、元々カジノがあった場所が廃墟となるなど、景観を大きく損ねる状況となっています。
韓国・カンウォンランドは国民向けカジノで失敗した
韓国の北部にあるカンウォンランドは、閉山した炭鉱に作られた統合型リゾート施設で、利用者の9割以上が韓国国民という場所です。
それもそのはず、韓国人が利用できるカジノはカンウォンランドしかなく、他のカジノは外国人専用だからです。
カンウォンランド周辺には質屋や風俗店が多く、質屋でお金を工面して臨む人が多いため、質草となった車が歩道に放置される状況を生み出しています。
地元住民は月1回しか利用できないため、一見するとギャンブル依存症対策などはできている感じがしますが、その1回のために何か月分の収入を抱えて入場する人がいるなど、地域への悪影響が出ています。
カンウォンランドができてからは自殺者が急増するなど、カジノの悪影響は間違いなくあることがわかります。
IRに関する日本の議論はある日から加速した
以前からカジノ構想は日本でも取りざたされ、石原慎太郎氏が都知事だった時は「お台場カジノ構想」が浮上していました。
そんな中、あるタイミングを境にIRの議論が急加速し、IR推進法が成立していきます。
安倍前総理のトランプタワー訪問から始まる
2016年11月、アメリカ大統領選挙でトランプ氏が当選を果たし、世界は大きな衝撃に包まれました。
そんな中、当時総理大臣だった安倍前総理は当選直後のトランプ氏がいるトランプタワーに赴き、会談を行いました。
IR推進法が急に動きだし、可決したのはそれからわずか3週間後の話です。
それまで塩漬け状態だったIR推進法
IR推進法案は安倍政権になってから議論を重ねてきたものの、世論の根強い反対もあって廃案や継続審議の状態が実に3年も続きました。
そんな法案がトランプタワーの訪問からわずか3年で動きだし、可決、成立まで持ち込まれたのです。
与党公明党も当初は自主投票だったが
2016年12月にIR推進法が採決された際、与党公明党は自主投票となり、3分の1の議員が法案に反対しました。
この時、公明党の山口那津男代表もIR推進法に反対していました。自民党と連立政権を組む公明党のトップもこの時はIRの設置に反対していたのです。
ところが、IRの設置に関する法律を定める際には与党公明党はほぼ全員が賛成の意思を示すなど、1年半で大きく流れは変わりました。
IR設置に積極的だった秋元司氏の逮捕が示すモノ
2019年12月、現職の国会議員である秋元司氏が収賄容疑で東京地検特捜部に逮捕されました。
当時IR事業への参入を目指す中国企業から現金を受け取って見返りを求められた容疑がかけられたのです。
秋元司氏は2017年8月に第3次安倍内閣でIR担当の副大臣に任命されており、中国企業からIR関連の金銭を受け取ったのは2017年9月だったことから、賄賂ではないのかと指摘を受けています。
IR設置を巡り、自分の会社を事業者にしてほしいという国内外の動きは熾烈になることは明らかで、現職の国会議員に働きかけが行われるのは必然です。
その中で贈収賄事件に発展し、挙句、証人を買収しようとする事件を起こすなど、きな臭い動きを見せています。
IR推進に動いていた北海道の断念
全国の自治体でIR設置に向けた動きが進んでおり、北海道もIR推進に動いていた自治体の1つでした。
しかし、2019年11月、北海道の鈴木直道知事はIR誘致を断念することを発表しました。
断念の理由は「環境問題」
鈴木直道知事がIR誘致を断念した理由の1つに環境問題を挙げていました。
元々IR誘致に動いた北海道の自治体として苫小牧、ルスツ、釧路3つの地域があり、その中でも苫小牧が有力とされてきました。
ところが、苫小牧の候補地で天然記念物に指定された動植物が発見されたことで、これに配慮する形でIR設置を目指さなければならない状態に追い込まれたのです。
実は議会がまとまっていなかった
北海道議会は自民党の会派が過半数を占めており、本来であれば誘致に向けた環境は整っているはずでした。
しかし、その会派で意見の集約ができておらず、たとえ鈴木直道知事が誘致を目指すとしても議会で可決が行えるのかは微妙だったという背景もありました。
いわば時間切れが濃厚だったわけですが、将来的に訪れる再チャレンジにおいて再び誘致を目指す意向も見せています。
IR設置に向けて対策が不十分という見方
IRの設置に際して、どの省庁が主に先導をするのか、このあたりの対策が不十分であるという見方がなされています。
内閣府が中心となってIRに向けた動きを強めていますが、内閣府だけではIR設置に向けた動きを取ることができません。
国土交通省の役割
IRを作る場合、国土交通大臣が基本方針を作り、国土交通大臣がIR区域の整備計画の認定を行い、そこから都道府県議会の議決と立地市町村の同意がなされます。
内閣府だけの仕事ではなく、国土交通省もIRに関与するわけですが、内閣府と国土交通省が縦割り行政を壊して連携がとれるかどうかは非常に微妙です。
ギャンブル依存症対策の厚生労働省
一方、厚生労働省はギャンブル依存症などの対策に乗り出しており、過去にはギャンブル依存症に関する調査を大々的に行っています。
ギャンブル依存症対策はIR設置においては重要な意味をなしますが、この対策がどこまで反映されるのかも微妙で、省庁が一致団結してIR設置に取り組むという姿勢が見られません。
IRの申請はコロナ禍で延期に
当初日本政府は、2020年1月に基本方針を決め、2021年1月から申請を受け付ける予定を立てていました。
ところが、2019年12月にIR担当副大臣だった秋元司氏が逮捕されたことで、基本方針の決定を遅らさざるを得ない状況に追い込まれます。
そして、コロナ禍によってアメリカの有力企業が日本市場からの撤退を発表するなど状況は悪化、これに伴い、2021年10月に受付を始め、2022年4月を期限とすることを決めました。
これまでに新型コロナウイルスの影響がどのようになっているのか定かではありませんが、この時期までコロナ禍の影響が重く残っているようだと状況はより厳しくなりそうです。
IR設置に向けた動きは4つのグループに絞られる
IR誘致に向けて積極的な動きを見せるのは4つのグループで、この中の3つのグループにIR設置の認可が下りる可能性が強まっています。
東日本では横浜市のみで、東京都は今からだと間に合わないのではないかとされています。
西日本では大阪府と大阪市、和歌山県、長崎県が誘致を目指しており、大阪府と大阪市はタッグを組み、2025年の大阪万博とセットで整備を目指していくことを決めています。
しかし、コロナ禍で感染拡大が進み、東京や横浜、大阪はコロナ収束に向けた取り組みの只中にいます。
その一方、和歌山県は徹底したコロナ対策を打ち出し、和歌山県知事の姿勢は全国から称賛の声が上がっています。
どのエリアにIRが設置されるのか、そして、コロナでどのような状況となるのかは神のみぞ知る状況です。
まとめ
新型コロナウイルスの影響で、今まで提示してきた青写真が描けない状況となり、本当にIRの設置は必要なのかという議論が再燃しています。
インバウンド客狙いをしたくてもそのインバウンド客がコロナで来られず、日本人を頼りにしようとすればカンウォンランドの二の舞になる可能性もあります。
またIRを巡る汚職問題はデメリットしか感じさせず、日本のカジノ設置の動きをかなり鈍らせたといっても過言ではありません。
そもそも住民たちが周辺にカジノを設置することをどれだけ許容しているかも定かではないため、今後の動きはとても大事になっていきます。