横浜市で現在問題になっている横浜カジノ法案は、多くの市民が反対し、市民団体によって住民投票を求める署名活動が展開されました。
しかし、2021年に入り、横浜市会の多数会派(自民党・公明党)は横浜市民約20万人の反対署名によって直接請求した住民投票条例案を否決し、物議を醸しています。
横浜カジノ法案に対する市民からの反対署名がこれだけ集まりながら、なぜ横浜市はIR法案に前のめりとなり、強引に進めていくのか、解説します。
横浜カジノ法案を通そうとする林文子市長の変化
横浜市民の反対がありながら、なぜ横浜市はカジノ法案を通そうとするのか、そこが一番のポイントです。
ここで語らなければならないのは、横浜市の林文子市長の主張が変化している点です。
林文子市長はIR法案を巡ってどんな態度を示してきたのかを解説します。
2012年からカジノに期待していた林文子市長
2012年に第2次安倍政権が発足した時期から、カジノを合法化するIR法案の整備が始まりました。
林文子市長は、2012年6月の市議会において、カジノに対する期待を語っており、この時からカジノ誘致に積極的であったことがわかります。
その後、各地でIR導入に向けた誘致の動きが出てきたことで、林文子市長は横浜市にIRを招致したいという発言を市会で繰り返し述べていきます。
急に言葉を濁し始め、白紙を表明した2017年
2012年から2015年まで事あるごとにIR実現に向けて期待感を示してきた林文子市長でしたが、2015年の秋になって変化が見られます。
IR導入への期待感とは裏腹に、絶対にカジノをやるとは言っていないという趣旨の発言が出てきたのです。
そして、2017年、横浜市長選挙の半年前に林文子市長はカジノ誘致白紙を打ち出しました。
きっかけはライバルの旗印?
これには、当時市長選挙への出馬を決めた元逗子市長の長島一由氏と元横浜市会議員の伊藤ひろたか氏がカジノ反対を掲げ、選挙の争点になることを恐れた判断だったとされています。
2017年6月には3選に向けて立候補を表明した林文子市長は、IR誘致に対して白紙を強調し、選挙戦に突入します。
「カジノ誘致白紙」で当選した林文子市長だったが…
2017年の選挙では、当時の野党の足並みがそろわなかったこともあり、林文子市長が3回目の当選を果たしました。
当選してからも林文子市長は、カジノ誘致に関して「白紙」と言葉にして強調するなど、カジノ誘致を目指す動きは当選後も見られませんでした。
ところが、2019年8月、いきなり林文子市長は、カジノ誘致を正式に表明したのです。
しかも、それまでカジノ誘致に関して市民の意見を聞きたいと発言していたにもかかわらず、住民投票で市民の声を聞くつもりはないと態度を一変させました。
横浜カジノ法案に対する市民・議会の声を聞かない林文子市長
2017年の横浜市長選挙の公約詳細版を見ると、「依存症対策や IR 実施法案など、国の状況を見ながら、市として調査・研究を進め、市民の皆様、市議会の皆様の意見を踏まえたうえで方向性を決定」と書かれています。
つまり、横浜カジノ法案を作る際には市民や議会の声を聞いた上で方向性を決めると、公約で掲げていたわけです。
ところが、2019年に市民の声を聞かずして横浜カジノ法案にGoサインを出したのが林文子市長です。
市民への説明は徹底されず中止へ
2019年12月から2020年2月にかけて、市内12の区で林文子市長自らがIR実現に向けた考え方を説明しました。
この中で、なぜ住民投票をしないのかという質問を市民から投げかけられています。
ここで林文子市長は、市民の意見を反映させる措置としてIR整備法で規定されているとし、公聴会の実施や議会の議決を挙げています。
横浜イノベーションIR市長説明動画
その後、コロナ禍によって林文子市長が参加する説明会は中止となり、残りの区では「横浜イノベーションIR市長説明動画」が流されました。
横浜イノベーションIR市長説明動画の長さは45分で、最初に林文子市長から市民へのメッセージがあり、その後、説明会の中身やよくある意見、質問への質疑回答が行われます。
12の区ではそれぞれの場所で林文子市長が直接答えていましたが、残りの区はこの動画の中で完結します。
林文子市長に直接質問をぶつける場がなくなり、これで市民への説明が十分なされたと言えるかは疑問です。
横浜カジノ法案は、コロナの影響を考慮していない
横浜市では2019年にIR誘致に際してコンセプト募集を行い、IRを行いたい事業者の提案概要などを公開しています。
2020年10月の時点で新型コロナウイルスによる影響を見込んでいなかったため、改めて検証を行ったうえで再び数値を示すよう、求めています。
11月末までに追加のコンセプト募集を受け付けていましたが、IRの整備効果が現状いくらになっているのか示されていません。
要するに、横浜カジノ法案は現状コロナの影響を考慮していないことになります。
横浜カジノ法案阻止を目指し、反対署名が集まる!
住民投票を行い、賛成か反対かを示せばそれで民意が示せるではないかということで、横浜の市民団体が立ち上がります。
中心となったのは、「カジノの是非を決める横浜市民の会」です。9月4日から11月4日にかけて住民投票を求める署名活動が行われました。
その結果、住民投票の条例提案に必要である法定数を大幅に上回る20万以上の署名が提出されました。
そのほとんどはIR法案反対の意味合いを込めた署名です。
住民投票が行われればその結果を尊重すると林文子市長は語っており、ここから住民投票が行われると誰しもが思っていました。
横浜カジノ法案関連の住民投票条例提案はまさかの否決!
住民投票の条例提案で法定数の3倍を超える反対署名が集まったことで、横浜市会の臨時会で住民投票の可否を審議することになりました。
2020年11月には住民投票の結果を受け入れると語っていた林文子市長でしたが、なんとまさかのアクションを起こすのです。
林文子市長は住民投票に反対意見を示す!
2020年12月28日、住民投票の条例案に対し、林文子市長はなんと反対意見を発表します。
「様々な手続きを定めている中で、加えて住民投票を実施することには意義を見出しがたい」という反対意見でした。
住民投票の実施は、議会で議論を積み重ねてきたものを棚上げするようなものと捉えており、市民への丁寧な説明と議会における議論を基本として手続きを進めることを示しました。
こうして住民投票の条例案は否決された
そして、2021年1月8日の臨時会で、住民投票の条例案は否決されました。
否決に回ったのは自民党と公明党を中心とした勢力で、市会の過半数を占めており、否決される可能性が高いと指摘されていましたが、地方自治法に定められた住民の権利を、「全面的に否定するなんて有り得ない」と驚きの声があがっています。
可決されていれば60日以内に住民投票が実施され、横浜市長選の前に賛否がはっきりとするはずでした。
横浜カジノ法案を巡るジャッジは横浜市長選挙に委ねられる
住民投票の条例案が否決されたことで、横浜カジノ法案の是非に関する民意について、明確に示す場所は、2021年8月に行われる横浜市長選挙となりました。
横浜市長選挙へ林文子市長が立候補するかどうか、2021年1月の時点ではまだ出馬の意向を示していません。
「4選」の質問にピリピリ
2020年9月、任期満了まで残り1年を切った時期に、市会で質問を受けた林文子市長は、「ここでお答えする立場にない」とピリピリした姿を見せました。
2021年に入って、出馬の意向を示す人物が現れるなど、段々と横浜市長選挙に向けた動きが出てきました。
横浜カジノ法案を巡り、推進かストップか、いずれかの民意は示されることになります。
横浜カジノ法案成立への狂いは国へのIR申請受付の延長
2020年10月、国はIRに関する基本方針を公表しました。この中で国は、IR誘致をしたい自治体が国に申請を行う期限を2021年10月1日からにしました。
元々の予定を9か月延期した形ですが、これにより、3期目の林文子市長の任期中にIR誘致の申請を行うことは不可能となりました。
次の「横浜市長」がカギを握る
もし誘致に関して申請を行うのであれば、2021年8月の市長選で林文子市長が再び立候補して当選をするか、カジノ推進派の人物が当選するか、そのいずれかが求められます。
コロナ禍でなければ、林文子市長の任期満了前に国へ申請を行っていた可能性があります。
いずれにしても、2021年8月の横浜市長選挙で当選した人物にすべてを委ねられることになりました。
横浜カジノ法案を巡る問題は市会選挙にも通じる
可能性は低いと思われますが、仮に林文子市長が4選となった場合、動きを止めるために求められるのは横浜市会において、横浜カジノ法案反対派が過半数を握ることです。
横浜市会選挙は2023年4月に実施予定となっており、もしもここで横浜カジノ法案反対派が過半数を握れば、林文子市長が推し進めるIR誘致の動きをストップできます。
反対派が過半数を握るにはハードルが高い
しかし、反対派が過半数を握るというハードルは高く、自民党と公明党2つの会派だけで過半数を握っています。公明党が反対に回れば大きく変わりますが、その可能性は限りなく低いのが実情です。
横浜市長選挙で明確に民意を示すことは大事ですが、2023年の横浜市会選挙においても同じように民意を示すことが市民に求められます。
まとめ
林文子市長が以前からカジノ推進、IR導入に積極的だったものの、自身の市長選挙を前に急に白紙を強調し、ほとぼりが冷めれば再び推進派に移るという姿を見せてきました。
そして、住民投票の結果を尊重すると語りながら、住民投票に関して反対意見を述べるなど、発言の内容が二転三転していることがうかがえます。
住民投票条例案が否決された今、市民が示せる民意は2021年の横浜市長選挙と2023年の横浜市会選挙のみとなっています。
横浜カジノ法案を阻止したいと立ち上がった市民たちの反対署名はどのように活かされるかが今後のポイントとなるでしょう。